プロ入りから20 年以上、ずっと変わらない形状。
それは、自分の打撃を信じ続けた結晶である。

プロ野球選手の多くは、肉体や打撃フォームの改造によって、バットの形状やサイズを変えていくもの。しかしイチロー選手はオリックスに入団2 年目から、イチローモデルと呼ばれるバットを手にして以来、木の材質は変われど、つねに同じ形状のバットを使い続けている。元読売ジャイアンツの篠塚選手が使用していたバットのヘッド重量を軽くすることで生まれたというこのモデルは、打球部の直径が60.5 ミリとバットの先端部より細く、他のプロ野球選手のそれと比べて非常にスリムに仕上げられているのが特徴。イチロー選手のバット作りを手がける名和民夫は「バットにボールが当たる部分はわずか一ヶ所だけ。きちんとミートさえすれば、あえて太くする必要がないというのがイチロー選手の考えなのでは」と語る。
バットが細くても、実際イチロー選手は試合でバットを折ることがほとんどない。イチロー選手によると、いい木のバットはどれだけボールを打っても折れにくいとのことだが、それは材質の話だけでなく、やはりイチロー選手のミートのうまさ、さらにはバットの管 理を日頃から意識し続けている賜物であろう。
イチロー選手はバットを湿気から守るため、ジュラルミンケースに入れて球場を移動するほどバットを繊細に扱う。一度、とあるゲームでバットを投げてしまったこともあるのだが、久保田名人にイチロー選手からのお詫びがあったという。その道具を大切にしたいとする気持ちと、イチロー選手の活躍を支えたいとする作り手の想いが、イチロー選手の打撃を前人未到の領域へと導いていく。

グラブを限りなく、手の動きに近づける。
匠の技が、そのような性能を具現化した。

イチロー選手のグラブは「柔らかくて」「軽くて」「よく開く」ことが基本。ウェブの形状や型の微修正、カラーリングを変更するなどのマイナーチェンジはあれども、それは名人・坪田信義がイチロー選手のグラブ作りを手がけ始めてから、2006 年に岸本マイスターに受け継がれて10 年が経過している今日まで、変わることのないイチロー選手の一貫した要望である。
一般的なグラブとの違いは、軽さ・柔らかさを出すために各パーツの革の厚み設定がより薄く設定されていること。皮革はステアと呼ばれる生後2 年以上経った成牛の革で、このステアをミズノが独自にグラブ専用革として開発したエリート(皮革の名称)を使用。別注品からプロ仕様品まで、多くの高校球児やプロ選手に使われているミズノプロ専用皮革である。なかでもイチロー選手用グラブは岸本マイスターが、数百枚のエリートの中から革を吟味し、イチローモデルとして仕上げている。
また、手にした際に軽さを感じられるよう先端側を軽くし、手元に重量が配分される仕様にするなど、総重量540g を上限に定めた外野手モデルとしては大胆な軽量化が図られているのも特徴。グラブの開閉がしやすい構造になっていることに加え、強い打球も捕球がしやすいようポケットは深く設定されている。
さらに、一般的にグラブの指先紐は形状を保つために一定の間隔に狭められている。グラブ全体の紐も短く調整したり縛ったりするものだか、イチロー選手のグラブの紐は指先の間隔が広く、一部の紐は締められず長いままの状態。指がよく広がり、素手に近い感覚でグラブを操れるように考案されたひとつの完成形だ。
「自分の手のように、グラブを動かしたい」。そのような言葉を受け、目に見えない部分にも工夫を凝らして生まれるイチロー選手のグラブ。そこには納得のいくグラブを作り上げるために数え切れないほどの試行錯誤を重ねたイチロー選手と岸本マイスターの長きコミュニケーションがカタチとなり、グラブの隅々まで息づいている。