サプライヤーにおけるCSR状況の把握と改善に向けた取り組み
一次サプライヤーにおける監査の実施と是正に向けた取り組み
取引中のサプライヤーのCSR監査については、「ミズノCSR調達規程」に基づき、主なサプライヤーである184以上の工場に直接赴き、定期的(3年で一巡)にミズノCSR調達行動規範に定める内容の遵守状況についてモニタリング(CSR監査)を実施しています。2019年度は31工場の監査を行いました。CSR監査は、現場監査、書類監査、従業員インタビューにより構成されているため、通常は複数の監査員が1日~数日かけて行います。遵守状況の確認には、ISO26000をベースとしたグローバルで共通のモニタリングシートを使用します。モニタリングシートの中の各監査項目は、重要度と緊急度によって、致命的、重大、一般の3段階に分類されています。監査項目に適合している場合は、それぞれの段階に設定したポイントを集計することにより点数化して評価を行います。
CSR監査の流れ
1.オープニングミーティング |
2.工場監査 |
3.書類監査 |
4. 従業員インタビュー |
5. クロージングミーティング |
監査員から工場の責任者や人事総務担当者、組合長等に対して「ミズノCSR調達ガイドライン」を利用し、監査の主旨を伝えるとともに、スケジュールなどについて説明を行います。 |
工場内を点検しながら不明な点は随時担当者へ質問。また生産現場だけでなく、食堂や寮にも赴き、安全衛生面や生活環境は守られているかを確かめます。
※全建屋対象 |
児童労働の有無や、労働時間や給与、社会保険は適切か、建築や消防に関する書類は揃っているか、環境に関する必要な測定は実施しているかなどを点検します。 |
労働時間、休暇、賃金、健康診断などについて従業員の方に質問し、工場責任者の証言や書類の内容と一致するか確認します。また、セクハラや差別、虐待といったことがないか確認します。 |
現場監査と書類チェックの結果をまとめ、工場責任者に監査結果を報告するとともに、今後の改善の計画などを話し合います。詳しい評価は、後日ミズノから連絡します。 |
2019年度のCSR監査実施状況
|
サプライヤー 数※1 |
重要な サプライヤー 数 |
2017年度 監査実施数 (参考) |
2018年度 監査実施数 (参考) |
2019年 監査実施 数※2 |
日本 |
111 |
47 |
7 |
4 |
2 |
中国 |
178 |
64 |
24 |
17 |
12 |
韓国 |
9 |
3 |
0 |
0 |
0 |
台湾 |
30 |
6 |
0 |
0 |
0 |
インドネシア |
20 |
11 |
3 |
2 |
3 |
ベトナム |
51 |
27 |
4 |
3 |
8 |
タイ |
10 |
7 |
2 |
1 |
2 |
フィリピン |
4 |
3 |
1 |
0 |
2 |
ミャンマー |
10 |
8 |
1 |
3 |
2 |
カンボジア |
6 |
1 |
1 |
0 |
0 |
その他 |
15 |
7 |
0 |
3 |
0 |
計 |
444 |
184 |
43 |
33 |
31※3 |
※1.2019年4月時点。2016年度からCSR監査対象とする条件を変更した。
※2.ミズノでは3年で一巡するよう主要工場での監査を実施している。
ただし、一部の優良工場については、5年に一度としている。
※3.新規サプライヤー候補工場への事前監査を含む。
CSR監査対象とする条件の一つ
ミズノでは世界銀行が発表する「世界ガバナンス指標」を参考に独自の視点も加えて、人権リスクが高いと考えられる国々についてCSR監査の対象国としています。この作業は直近の「世界ガバナンス指標」を参考に毎年レビューを行っています。国民の声(発言力)と説明責任、政治的安定と暴力の不在、政府の有効性、規制の質、法の支配、汚職の抑制などで総合的に上位に位置付けられた国についてはCSR監査除外国としています。CSR監査除外国のひとつである日本に関しては、例外的に、人権問題の懸念があるとされる外国人技能実習生を雇用している監査対象工場のCSR監査を実施しています。
世界ガバナンス指標
総合指標 |
指標の意味 |
国民の声(発言力)と説明責任 (Voices and Accountability) |
国民の政治参加(自由かつ公正な選挙など)、結社の自由、報道の自由があるかどうか。 |
政治的安定と暴力の不在 (Political Stability and Absence of Violence) |
国内で発生する暴動(民族間の対立を含む)やテロリズムなど、制度化されていない、あるいは暴力的な手段により、政府の安定が揺るがされたり、転覆される可能性がどれだけあるか。 |
政府の有効性 (Government Effectiveness) |
行政サービスの質、政治的圧力からの自立度合い、政府による政策策定・実施への信頼度、政府による(改革への)コミットメント。 |
規制の質 (Regulatory Quality) |
その国の政府が、民間セクター開発を促進するような政策や規制を策定し、それを実施する能力があるかどうか。 |
法の支配 (Rule of Law) |
公共政策に携わる者が社会の法にどれだけ信頼を置いて順守しているか。特に契約の履行、警察、裁判所の質や、犯罪・暴力の可能性など。 |
汚職の抑制 (Control of Corruption) |
その国の権威・権力が一部の個人的な利益のために行使される度合い。汚職の形は大小を問わず、また一握りのエリートや個人の利害関係による国家の支配も含む。 |
主なモニタリング内容
ミズノでは、主に以下の項目について監査を行っています。監査項目は、致命的、重大、一般の3段階に分類され、それぞれポイントに重み付けをしています。監査対象工場の設備等によって該当する監査項目が若干異なるため、該当する監査項目ポイントの合計を割合で表しています。
監査項目と平均点(2019年度)
|
|
平均点(全体) |
人権 |
結社の自由 |
93% |
差別/ハラスメント/ジェンダー |
100% |
児童および未成年労働者
|
98% |
奴隷労働/強制労働/移住労働 |
100% |
労働慣行 |
雇用契約/雇用条件 |
93% |
報酬 |
85% |
労働時間 |
83% |
安全衛生 |
飲料水/洗面台/便所 |
99% |
化学物質 |
76% |
管理システム |
86% |
救急処置 |
73% |
消防 |
80% |
厨房 |
98% |
電気/機械/設備 |
75% |
寮 |
94% |
労働環境 |
79% |
環境 |
汚染の防止 |
82% |
化学物質(二次工場のみ対象) |
100% |
管理システム |
82% |
資源の使用/気候変動の緩和 |
79% |
その他 |
監査協力姿勢 |
100% |
平均 |
87% |
人権に関する不適合項目について
人権項目に属する、児童および未成年労働者、強制労働、結社の自由、差別、懲罰慣行の5項目で2019年度の監査で指摘のあった内容とその是正状況を下表に示します。
分類 |
内容 |
是正状況 |
児童および未成年労働者 |
夜間シフトや危険な労働環境に未成年労働者を配置していないか? |
不適合1件、是正完了 |
結社の自由 |
労働組合を結成し、加入する労働者の権利は、労働者に対して経営者により認められているか? |
不適合2件、是正完了 |
労働者は彼ら自身の代表 / 代弁者を選出しているか? |
不適合2件、未完了・追跡中 |
工場と労働者の代表が協議などを通して、労働者の苦情を解決する仕組みを持ち、有効に機能しているか? |
不適合4件、未完了・追跡中 |
奴隷労働/強制労働/移住労働 |
すべての労働者は工場に自発的に出勤し、勤務時間後に退勤することは自由であるか? |
不適合1件、未完了・追跡中 |
監査結果の評価ランク
ミズノでは、評価指数90以上を評価A、評価指数80-89をB、評価指数70-79をC、評価指数69以下、または、児童労働・強制労働が発見された場合をDとし、監査結果を4段階で評価しています。
2019年度の監査対象工場の評価ランクは以下の通りです。
評価ランク |
対象数 |
A |
16 |
B |
11 |
C |
2 |
D |
2 |
全体 |
31 |
違反が確認されたサプライヤーの是正状況
不適合が多かった項目
監査で評価の低かった項目は「安全衛生(機械及び設備)」「労働時間」「報酬」「安全衛生(消防)」「安全衛生(化学物質)」「安全衛生(救急処置)」などでした。具体的には、機械の危険な部分の保護装置、残業や休日出勤などの長時間労働、社会保険の提供、有害物質の保管や管理方法、消防設備の維持管理などの問題が発見されました。
全体
順位 |
分類 |
要求事項 |
不適合 割合 |
1 |
労働慣行/労働時間 |
労働時間・残業時間は法的要求事項を満たしているか?
|
41% |
2 |
労働慣行/報酬
|
残業手当は法的要求事項を満たしているか?
|
38% |
2 |
安全衛生/消防
|
すべての現場の建物が構造的に安全であり、点検され、かつ地方自治体によって発行された証明書/許可証を持っているか?(建築証明書など)
|
38% |
2 |
安全衛生/化学物質
|
危険/有害物質は安全かつ厳重に保管されているか?
化学薬品貯蔵所の消火設備は適切か?
危険廃棄物貯蔵所の消火設備は適切か?
|
38% |
5 |
安全衛生/消防 |
出口および非常口は、標識または表示灯と共に確認されているか?
|
35% |
5 |
安全衛生/化学物質
|
化学物質について、現地の言語による安全データシート(SDS)を維持管理しているか?
|
35% |
7 |
安全衛生/電気/機械/設備
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現地の規制要求事項毎に、エレベーター、圧力容器、および昇降設備の有効な検査証明書を持っているか?
|
32% |
7 |
安全衛生/労働環境
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個人防護用具(PPE)が労働者に支給されているか?
|
32% |
7 |
安全衛生/労働環境
|
危険な環境に晒される労働者のために定期健康診断を手配しているか?
|
32% |
7 |
環境/汚染の防止
|
廃棄物の保管場所は整理され、現地の法律に従い適切に管理されているか?(文書化された手順書に基づく危険物の取扱い、一定の保管スペース、適切な容器、わかりやすい表示など)
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32% |
7 |
環境/管理システム
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現地の法律または規則によって要求されるすべての環境に関する認可および許可証を持っているか?
|
32% |
7 |
安全衛生/救急処置
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選ばれた労働者は救急処置のトレーニングに出席していたか?
|
32% |
7 |
環境/資源の使用/気候変動の緩和
|
工場は水及びエネルギー消費の抑制に関する従業員教育、研修を実施しているか?
|
32% |
不適合項目の是正状況
全体 |
210件 |
100% |
是正済 |
92件 |
44% |
未是正 |
118件 |
56% |
※2019年度CSR監査実施分の2020年4月9日現在の状況
二次・三次サプライヤーにおける対応
ミズノでは、ミズノと直接的な関係をもつ一次サプライヤーにおける人権、労働、環境影響の把握と必要に応じた是正を、第一に優先するべき重要課題として取り組みを進めています。
ミズノの委託先工場へ部材や部品を納めるミズノと直接取引がない二次・三次サプライヤーについても、著しい人権、労働、環境影響が発生するリスクの高い領域に焦点を据えた取り組みを進めています。ミズノは、2017年度からリスクが高いと思われるゴルフクラブのアイアンヘッド等のメッキ、繊維素材の染色、野球グラブやシューズ用の皮革なめし等の二次・三次のサプライヤーの現状把握を開始しました。
- 2017年度:二次・三次サプライヤーの実情を把握するため、日本の金属加工工場とタイの生地染色加工工場を視察しました。
- 2018年度:中国のメッキ工場、ベトナムの皮革なめし工場、シューズのアッパー(甲皮材)工場、シューズのゴム底工場のCSR監査を実施しました。
- 2019年度:ゴルフ部品工場、甲被材、底材工場のCSR監査を実施しました。(ゴルフ部品工場、底材、甲被材加工工場の3工場の監査結果が基準を下回ったため、是正を進めるとともに、2020年度に追跡監査を実施する予定です。)
CSR監査以外での対応
ミズノでは、ミズノCSR調達行動規範に定める内容の遵守状況についてモニタリング(CSR監査)を実施しています。特にリスクの高い地域においては、監査以外にCSR担当者が現状確認のため、工場視察を実施した上で、是正が必要な場合はアドバイスを行っています。工場視察の際には、CSRの意義を理解した上で改善に取り組んでもらえるように、ミズノのCSRに対する考え方やCSRの意義についての説明も実施しています。
現在、ミズノの委託先工場の多くが所在する東南アジアでは、現地の急速な経済成長を背景として今まで以上に環境問題や労使紛争などが起こりやすい状況になってきています。このような社会の変化が進展する状況下では、CSR監査における不適合項目の是正だけでは根本的な人権・労働・環境問題の解決にはつながりにくくなっています。従って、今後はCSR監査以外の活動として、工場のキャパシティ・ビルディング(能力向上)に力を注いでいく必要があると考えています。2019年度はキャパシティ・ビルディングの取り組みとしてミズノ大阪本社で開催したCSR調達セミナーには、5社8名の仕入先が参加しました。セミナーでは、CSRとサスティナビリティに関する世界の潮流とミズノの取り組みや、これまでのCSR調達監査で指摘された主要な問題点と是正の進め方について説明しました。
ミズノCSR調達セミナー(2019年11月ミズノ大阪本社ビル)
IndustriALLとUAゼンセンとの協働
ミズノは、委託先工場の労働者の人権保護、労働条件の向上のために、2011年にITGLWF:国際繊維被服皮革労組同盟(現在はIndustriALL)、UIゼンセン(現在はUAゼンセン)、ミズノユニオンと「グローバル枠組み協定」に署名しました。この協定締結により、ミズノは締結者を正当なパートナーとして尊重するとともに、ILO:国際労働機関が定める中核的労働基準(結社の自由、団結権の保護、児童労働の廃止など)の適切な実施に向けて取り組んでいます。2019年度は、過去に人権NGOから問題を指摘されたタイの工場の是正状況を確認する目的で、実施をしたCSR監査にIndustriALLとUAゼンセン、ミズノユニオンとともに立ち会いました。
中国の環境NGO「IPE:公衆環境研究中心とGCA:緑色選択連盟」への協力
中国の環境NGO「IPE:公衆環境研究中心とGCA:緑色選択連盟」は中国の環境汚染改善に向けて取り組んでいます。ミズノはサプライチェーンで発生した環境規制や環境監査での違反事例に対して、上海ミズノを窓口としてサプライヤーとIPEのコミュニケーションを促進し改善を図っています。こうした対応の結果、「IPE:公衆環境研究中心とGCA:緑色選択連盟」が発表する対応状況(CITI指数)ランキングで、全454ブランド中59位となっています。(CITI指標2020年3月時点)
今後の課題
- CSR調達監査で指摘された問題の是正が重要です。サプライヤーとの対話を通じて是正の促進に引き続き取り組みます。
- 同じ工場が複数のブランドの製品を受託して製造している場合、それぞれのブランドからの監査要求に対応しているケースが見受けられます。そういった監査の重複や、要求事項の違いなどに対する改善の要望を受けて、業界団体やその他のイニシアチブで取り組みが進んでいます。ミズノもこういった状況の改善に向けた研究をしていきます。
- CSR監査は監査時点の状況を把握することはできますが、工場を常時モニターすることはできません。CSR監査を補うものとして「苦情処理メカニズム(グリーバンス・メカニズム)」の構築が有効とされています。ミズノは、救済のアクセスを保障するとともに、潜在的なサプライチェーン上の問題を早期に発見するため、「苦情処理メカニズム(グリーバンス・メカニズム)」の構築に取り組みます。