
平和で持続可能な社会を実現するため、スポーツを起点とした社会イノベーションを起こし、ミズノグループの中長期的な成長につなげます。
新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)は2021年も拡大と収束を繰り返し、私たちの暮らしに大きな影響をもたらしました。その中で多くのプロスポーツや国際大会で観客数が制限されたり、東京オリンピック・パラリンピックも残念ながらほとんどの競技が無観客での開催となりました。しかしながら、アスリートの活躍は、将来を担う子どもたちにも大いに夢や感動を与えてくれます。勝ち負けだけでなく健闘をたたえ合う選手たちの姿に、私自身も大変勇気づけられましたし、まさしくスポーツの力を感じる一年となりました。
ミズノグループは、1906年の創業以来「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念を掲げています。これは今後も変わることのない軸であり、すべてのステークホルダーに向けたミズノのパーパス(未来の存在意義)といえます。これに加えて、近年はスポーツで培った知見を生かし、高齢化社会や気候変動適応の製品開発にも取り組んでいます。例えば、健康寿命(健康に生活できる期間)と平均寿命にはまだ大きな差があります。当社は病気治療に直接携わることはできませんが、痛みを軽減したり失われた身体機能を補完したりするような製品を提供することで、できる限り健康に近い状態に戻し、不自由の少ない生活を送るためのサポートを実現しています。また、気候変動への適応では、夏場の屋外作業における熱中症のリスクを軽減するため、機能素材や装置を使った快適なウエアやシューズを提供するなど、さまざまな労働環境の課題解決に挑戦しています。
このように、スポーツの力で社会課題解決に貢献するイノベーションをさらに創出していくため、本社ビルの隣に建設を進めている「イノベーションセンター」が2022年秋に完成します。コンセプトづくりの段階からいろいろな部門や年代の社員が集まって自由に意見を出し合い、「常に変化・進化し続ける場所にしたい」という思いが込められています。スポーツの定義を競技シーンだけでなく、日常生活シーンにおける身体活動にまで広げて、最先端の機材や測定機器を導入し、科学的なデータを取りながら製品開発のサイクルをアジャイルに進めていきます。
気候変動や人権などサステナビリティを取り巻く社会課題の重要性は年々高まってきていると感じています。さまざまなリスクの高まりは、欧州を中心とした消費者の購買意識に大きな変化をもたらすとともに、株主・投資家の皆さまの投資行動にも影響を与えています。当社にできることの一つ一つは小さいことかもしれませんが、それらを積み重ねることで、大きなソーシャルインパクトを出したいと強く思っています。
当社は、1991年から宇宙船地球号の乗組員(Crew)としての役割を果たすという思いを込めた地球環境保全活動「Crew21」を開始して以降、30年間にわたって事業活動に伴う環境や社会への影響を低減するため、企業の社会的責任としてCSR活動を積極的に進めてきました。環境配慮型製品の開発や、資源の有効活用、調達先企業に対するCSR調達など、今後も取り組みをさらに強化していきます。そのうえで私は、ビジネスに伴う責任ある企業行動をベースにしたサステナビリティ活動はコストと捉えるのではなく、経営戦略と一体となって積極的に投資を進めることで、ブランド価値や企業価値を高めることにつながるとも考えています。
その考えのもと、2021年、当社グループは長期の環境目標を策定し、2050年のカーボンニュートラル実現に向けてバリューチェーン全体で温室効果ガス(GHG)排出量の削減に取り組んでいます。2030年目標もScope3で50%削減(2018年比・製品あたり)と野心的な目標を設定しました。また、国連グローバルコンパクトへの署名や、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明するなど、世界的に影響力のあるイニシアチブとの連携も深めていきます。
当社グループはスポーツをはじめ、日常生活、労働の現場など各シーンにおいて、未来に向けた新たな価値を創出できると考えています。平和でなければスポーツもできないという観点から、スポーツの力を通じて平和で持続可能な社会を希求しますし、その実現に貢献したいと心から思います。そして、その結果としてミズノというブランド価値が創造され、着実に成長していくことを目指しています。世界的に、疾病や、戦争による先行きはまだまだ見通せない状況が続きますが、いつも支えてくれる素晴らしい社員をはじめステークホルダーの皆さまとともにこの困難を乗り越え、誰一人取り残さない社会を創っていきたいと考えています。
ミズノ株式会社 代表取締役社長