旧ミズノ淀屋橋店 南側

南側

4Fバックヤード階段付近旧外壁窓

4Fバックヤード階段付近旧外壁窓

建物南側は、建築後に増築されています。
建物完成当時の南側外壁部分にあった窓は、鉄板を被せて埋められており、外壁部分も新たにコンクリートによって平らにならされたようです。

1F売り場扇状階段

1F売り場扇状階段

1階フロア床面から3段目は段鼻部分が曲線となっている上、段鼻の曲率がすべて異なっています。これは上り下りのしやすさよりも意匠を優先して設計した結果です。
お客さまが利用する階段だからこそ、目に止まるような曲率の異なる段を設えたのでしょう。
実際に戦前に建てられた商業ビルの多くは、利便性や空間効率よりも空間的な演出が優先されていました。
たとえば、昔の阪急百貨店梅田本店や大丸心斎橋、高島屋などです。来店されるお客さまが、通常ではあり得ない不規則な階段を見ることで、気持ちが高揚して購買意欲が高まることを狙ったと考えられます。戦前や戦後間もない百貨店や商店建築ではそうした取り組みがいくつも見られます。
現代の建築なら間違いなく実用性や利便性を優先し、曲率が均一でシンプルな階段を設置する設計になっているでしょう。

1F階段踊り場下段のコーナー曲線加工

1F階段踊り場下段のコーナー曲線加工

階段のコーナー部分は、お客さまが通るエリアについては万が一当たってもケガをしないよう、壁面も腰板も角が丸められています。
特に腰板部分には人造大理石(テラゾー板)が貼られていますが、そんな腰板部分も壁と同じように角を丸くするためにわざわざ削って丸めています。

1F踊り場下段の六角柱

1F踊り場下段の六角柱

この柱だけ六角形になっています。意匠的にも美しいですが、これも極力角を滑らかにして、万が一お客さまが当たってもケガをしないようにとの配慮だと思われます。

1F踊り場下段から見上げ

右手の掲示板下に角柄を出したあしらいと、天井と壁の境界部分に施された回り縁の様子が確認できます。

1F踊り場下段付近の天井左官仕事

1F踊り場下段付近の天井左官仕事
1F踊り場下段付近の天井左官仕事

壁と天井の境目は、すき間やクラック(ひび割れ)が生じやすい場所のひとつです。そうした部分を隠し、見た目を美しく保つために『回り縁(まわりぶち)』を施します。この建物でも、天井と壁の境目に回り縁が施されています。
しかも左官職人の手仕事によって生まれた回り縁の美しい曲面が職人の技術の高さを物語っています。

2F下段踊り場

2F下段踊り場
2F下段踊り場

非常階段へ出る扉は幅が狭く建設当時のもの。当時、この扉の向こう側は外につながっており、鉄製の階段が非常階段として設けられていたようです。

1F・2F・4F腰板人造大理石

1F・2F・4F腰板人造大理石
1F・2F・4F腰板人造大理石

人造大理石の腰板は、1~2階部分と2~3階部分では、貼られている石の色が異なります。さらに、建築当時オフィスとして使われた4階より上階には、人造大理石の腰板は貼られていません。まったく異なる色ではなくどちらも暖色系を用いていることから、今何階にいるのかを示すのと同時にオシャレ感の演出も意図としてあったのではないかと考えられます。
もちろん階段の角部分は腰板も角を丸くしてあり、お客さまの安全に配慮した作りとなっています。

外壁

外壁
外壁

屋上部分のパラペットと呼ばれる屋上手すりの部分、特に角の部分は蛇腹のような凹凸と上にいくほどせり出す装飾がなされています。軒部分に軒蛇腹(のきじゃばら)と呼ばれる立体的装飾が帯状に設えてあります。
上に行くほどせり出すような形状の軒蛇腹は、ヨーロッパの歴史的建築に多く見られます。特にこの建物の軒蛇腹は三段になっていると同時に、7つのリブが水平に施されています。これはドイツ表現主義という建築様式の影響を受けています。
その下には、屋上パラペット部分と同じ装飾の下部にアーチが見えます。こうしたアーチはロマネスク風の建物でよく見られるスタイルで、ロンバルジアベルトと呼ばれています。しっかりと細部まで装飾が施されている点などから、設計者である岡部顕則氏のこだわりが感じられます。
建設当時の日本では、ドイツ表現主義風の意匠やロマネスクデザイン様式の建築が流行していました。大正時代の終わりから昭和初期頃に建築された鉄筋コンクリート造のビルには必ずといってよいほど、このような意匠が建築に用いられていました。当時としては上品でオシャレなビルだったでしょう。

その他の場所