コラム

写真

宮嶋 泰子 (みやじま やすこ) 氏

スポーツ文化ジャーナリスト 一般社団法人カルティベータ代表理事

1977年テレビ朝日入局。スポーツコメンテーターとして、オリンピック現地取材を1980年のモスクワから2018 年の平昌まで19 回担当。

3つのしあわせ脳内物質とスポーツ

ウガンダのカンパラにある小さなクラブでは、子どもたちの弾けるような笑顔があふれている。
勢いよく走ってきた子どもたちは、赤い土に半分埋められた古タイヤを思いっきり踏んで空中に飛び出す。そしてくるりと鮮やかな宙返りして着地する。ロイター板の代わりが古タイヤというわけだ。
成功した子どもたちのこぼれるような笑みを見ているとこちらまで楽しくなってくる。器具はなくても立派な体操だ。何かができるようになったり、目標が達成できた時の歓びは万国共通だ。
人間が楽しさや幸せを感じる時には、脳内では3つの脳内物質が分泌されていると言われている。
その一つがスポーツで勝った時などに出てくるドーパミンだ。今まで練習してきたことが成功した時や勝利の瞬間、さらには努力してきたことが褒められた時にも出てくる。
二つ目はオキシトシン。スポーツで得られるものの一つに、他の人とのつながりによってもたらされる幸福感がある。仲間や指導者との信頼関係など、一緒にいて楽しいと感じるとき、脳内ではオキシトシンが分泌されている。
三番目の幸せを感じる脳内物質はセロトニンだ。セロトニンは心と身体の幸福を感じるときに出ている物質で、「なんて爽やかな朝だろう、気持ちがいいなあ」と感じたり、森林を歩いている時の静かな満足感や清々しい気持ちの時がこれに当たる。セロトニンが不足しているとイライラしたり怒りっぽくなったり切れやすくなる。ある意味、幸せな生活を送る時の基本になるのがこのセロトニンと言える。
いかがだろう、スポーツには人が幸せになり楽しいと感じられる要素がたくさん詰まっている。
ただ気をつけなくてはいけないのはドーパミンによる興奮を求めすぎると依存性が高くなってしまい、他の二つのしあわせ脳内物質を犠牲にしかねないという事だ。スポーツは人生を豊かにしてくれるものという考えを常に頭の中に持っていると、スポーツへのかかわり方が変わってくるのではないだろうか。
スポーツの普及にかかわる仕事は「しあわせ運びやさん」と言いかえることができるかもしれない。ミズノスポーツ振興財団は笑顔makerだ。

写真

杉山 茂 (すぎやま しげる) 氏

スポーツプロデューサー 元NHK スポーツ報道センター長

1959 年にディレクターとしてNHK入局。名古屋放送局勤務を経て、多くのスポーツ中継制作に携わる。なかでもオリンピック中継は、現地取材に携わったものだけで1964年東京から1998年長野まで夏・冬12回に及ぶ。

スポーツは多様多彩に楽しめる

競技、競闘、運動、体育、遊戯....。150年ほど前、諸外国からさまざまな形で日本に「スポーツ」が次々と伝来した時、ピタリとはまる邦語が見つからなかった。
無理して表現を探すよりも、和訳せず「スポーツ」そのままでも良かっただろうが、各所で外国人から母国での活動の様子を聞き、そのニュアンスを当てはめた。
興味深いのは漢字表記の一つ々々に「スポーツ」の特徴が盛り込まれ「スポーツ」は愛好する人それぞれの年齢や目的によって多様、多彩に親しめるのを示していることだ。
「スポーツ」の素晴らしさはそこにある。競闘と勇ましく捉え熱中しようが、日常生活のツールとしてのんびり取り組もうが「スポーツ」の極意はその一点につきる。訳者たちは鮮やかに日常における「スポーツ」を見つけた。
底に流れるのは爽快感。「SPORTS」の語源も年代、地域などで無数に近い解釈を聞くが「気晴し」の意から転じたとする説は、健康志向の高まる現代社会に活かせる重要な視点だ。
散歩道であれ、ジムであれ、近代装備のスタディアムであれ、開放感に満ちた時間、空間で味わう思い々々の姿はスポーツそのものである。
人々が「スポーツ」に関わる範囲が広くなった。メディアが大きな力を示す。用具の研究に打ち込むミズノもトレーニングウエア、シューズなど数え切れぬ製品にスポーツの素晴しさを伝えるメッセージを託して世界をかけめぐるメディアであろう。
選手のユニホームと同じデザインの“衣装”で沸く光景など「スポーツ」は冒頭に書き並べた字句では収まり切れぬ要素を加えた。
スポーツの楽しさは無限大に拡がっているーー。