このたびは「第34回ミズノスポーツライター賞」最優秀賞を授与いただき、誠にありがとうござ います。私が学生時代から夢中になって読んできた、佐瀬稔さん、後藤正治さんらが名を連ね、 長年スポーツ文学を支援してこられた本賞を賜ることができ、大変光栄に存じます。
ボクシングで無敗のチャンピオン、井上尚弥の強さを紐解きたい－。その思いで対戦相手の取材 を始めました。しかし、敗者の言葉を聞くにつれ、彼らの生き様に心を奪われていきました。周囲の 反対を押し切り、強者に挑む勇気。完敗という絶望から這い上がる姿。敗戦を糧に少しでも強く なろうとする向上心。そこには全身全霊を懸けて闘ったからこそ、得られる教訓がありました。 勝者にストーリーがあるように、敗者にもまた濃密な物語があります。私は彼らを取材しながら、 何か大切なことを学んでいるかのような感覚に陥りました。
　スポーツに限らず、人生で大きな壁に直面したとき、心が挫けそうになったとき、本書を手に取っていただき、「怪物」と拳を交えたボクサーの言葉に耳を傾けていただけましたら嬉しく思います。
末筆ではございますが、拙著を評価してくださいましたミズノスポーツ振興財団および賞の選考 委員の皆様に心より感謝を申し上げます。また、編集者としてセコンドのように支えてくださった 講談社の鈴木崇之さん、阪上大葉さんに重ねて御礼を申し上げます。
本賞を励みとし、引き続きスポーツが持つ魅力を文章で表現することにこだわり、スポーツライ ターとして研さんを重ねて参る所存です。