旧ミズノ淀屋橋店 北側

北側

1F入口大理石

1F入口大理石
1F入口大理石

美しい縞が入り、小さな穴が所々に点在する大理石は、サンゴが固まった『トラバーチン』と呼ばれる高級な建築石材です。
角もきちんと面取りされて丸くなっており、安全が確保されています。安全性を意識している点や、高級石材を壁面に使用している点は、1階を店舗空間として設計した証しでもあります。

B1階段手すり装飾

B1階段手すり装飾
B1階段手すり装飾

階段状になった手すりは、ドイツ表現主義の建物でよく用いられる手法で、アール・デコのデザインにもつながっていくものです。
ロシア構成主義やドイツ表現主義、アール・デコ、オランダのデ・スティール派など、当時アバンギャルドとされた多くのデザインは細部にこだわるのが特徴でした。これより以前に流行したアール・ヌーボーでは花などをモチーフとした具現的な装飾でしたが、ドイツ表現主義以降では単なる具象的な装飾は排除され、建物の形態を抽象的に変えていくことでデザインがされます。
これはキュビズム建築などにも見られる手法です。
手すりが階段状であることよりも珍しいのが、手すり上部に設えられた木板の表面で、野趣と呼ばれる細かい彫り込みによる表面加工がされています。

これはアーツ&クラフツの影響を受けた建物に多い装飾で、19世紀から20世紀にかけてイギリスで盛んになったものです。別名『田園都市運動』とも呼ばれる動きにもリンクして現れたもので、この運動は日本では民藝運動につながっていくものです。
ここでは、手仕事が強調された田舎の風情を感じさせるインテリアとなっています。地下へと続く階段部分にこのような『見せるための意匠』を施しているということは、地下にもお客さまが来られる前提で設計されたのでしょう。

階段裏曲線&8F階段裏末端段

階段裏曲線&8F階段裏末端段
階段裏曲線&8F階段裏末端段

ていねいな左官仕事によって生まれた造形です。丁寧な左官仕事で曲線を付けています。今は左官職人が減っているので、こういう仕事は少なく、型を作って流し込むだけのものがほとんどです。
天井と壁の取り合いのところは手仕事で廻り縁が施されています。廻り縁とは、天井と壁を区切るために部屋の四隅に張り巡らせたあしらいを指します。
最近は既製品のモールを廻り縁の部分にはめ込んだり、何もされていないことも少なくありません。この建物には、このような手仕事の痕跡がたくさんあります。

屋上から見下ろし&2Fから見上げ

屋上から見下ろし
2Fから見上げ

北側の階段は、外国映画で登場するような吹き抜けが存在し、その周囲を回るように階段が配置されています。これは廻り階段と呼ばれる様式で、階段を上り下りするお客さまに空間を楽しんでいただくためにこのような設計になっています。
南側は吹き抜けではなくエレベーターを軸とした廻り階段になっていますが、北側も南側も同じ廻り階段様式といえます。特に、エレベーターを軸とする廻り階段は、ヨーロッパなどでよく見られます。

1F階段扇状階段

1F階段扇状階段

1階フロアに辿り着く最後の4段が1階床面に近づくに従って波紋が広がるように階段が配置されています。
それぞれの段鼻部分の曲率は同じで、川の水が上流から河口に流れ出すようなデザインです。曲率が同じなのでデザイン的な美しさを感じますが、空間効率を優先する設計思想なら決して生まれなかったデザインです。
また、1階店舗フロアからや地下からなど、多方向から集まってきた人たちが最短距離で次の階に向かえるようにという配慮も感じます。

2F階段手すり大理石

2F階段手すり大理石
2F階段手すり大理石

商業ビルにとって、1階は売上が最も高くなる一等地です。そんな一等地の空間を一望できるように中2階を設置しています。
これは建物の中に吹き抜け空間があると、人は高揚感や空間性を感じるという環境心理学の手法を用いており、クラシカルな百貨店店舗などでも採用されている空間設計手法のひとつです。
おそらくここからの眺めは、完成当時から人気だったのではないでしょうか。
ここで注目したいのは、中2階に設置された黒い手すり。実は高級感を演出するために使われている黒大理石で、非常に高価なものです。高価な理由としては、この場所に使われている黒大理石の柄が素晴らしいことが挙げられます。
黒大理石は真っ黒よりも、黒の中に程よく白い部分が含まれている方が高級とされています。この白い模様を『更紗模様(さらさもよう)』と呼び、日本だけではなく石材王国イタリアでも価値があるとされています。
そして、ここに使われている黒大理石はとても美しい更紗模様が刻まれています。黒大理石の中でも高価な部類に入ると思います。

3F階段裏末端段&4F階段裏末端段

階段裏の天井部分の角張った部分に頭が当たってケガをしないよう、曲面で構成されています。この曲面はいったんコンクリートで直線的形状を成形したあと、砂漆喰を用いた左官仕事でその表面に曲面を作り出しています。当時はモルタルが高価だったために砂漆喰を使ったのでしょう。

その他の場所