
暑熱環境下で運動する人の体を冷却するベストの開発
近年、地球温暖化が叫ばれています。暑熱環境下での運動は深部体温が上がり、パフォーマンスの低下や熱中症リスクの増大につながる可能性があります。そんな暑熱環境下での身体冷却は、身体能力のリカバリーやパフォーマンス、認知機能の低下抑制、発汗量の抑制につながるといわれています。現在も氷のうをはじめアイスバス、クライオセラピーなど多様な身体冷却方法がありますが、冷却部位が限定されたり、運搬ができなかったりというデメリットがあります。
そこでミズノでは着用するだけで効率的に体を冷やし、休憩時間に着用すればその後のパフォーマンス低下の抑制につながるウエアを作ろうと考え、「コールドチャージベスト」の開発がスタートしました。
1.効率的な冷却部位の探求
競技中でもユニフォームの上から羽織れるようベストの形状を選択。内側に複数のポケットを配置し、保冷剤を入れる仕組みにしました。
最も難しかったのは保冷剤を体に密着させる構造です。保冷剤は重量があるため通常はポケットを作ると重みで垂れ下がりますし、製品を伸びない生地で作ると体に密着しにくくなってしまいます。
この課題を解決するため、体の凹凸がある部位には伸びる生地と伸びない生地を組み合わせたポケットを、脇部分には伸びる生地を配置し、可能な限り保冷剤を体に密着させる構造にしました(特許7122892)。さらに、できるだけ少ない数の保冷剤で効率的に体を冷却できる位置を探求しました。このような探求は、広島大学長谷川教授との共同研究で行いました。研究結果をもとに、保冷剤を入れるポケットは首と背中(上部)、脇、胸に配置しています。



2.冷却効果の検証
開発したコールドチャージベストの着用有無によるパフォーマンスの差を検証しました。男子学生8名にサッカーを想定した間欠的運動を暑熱環境下で行ってもらい、深部体温や皮膚温、心拍数などの生理学的指標測定やパフォーマンスの測定、官能評価を行いました。結果は、ベストを着用した人は着用していない人に比べると、ベスト着用後に心拍数が早く低下しただけでなく、その後の運動パフォーマンスが低下しにくいことがわかりました。
この検証は、広島大学長谷川教授との共同研究で実施し、研究結果は国際論文にも掲載されました。さらに学会でも発表されたことから、国内外の代表チームや競技団体からコールドチャージベストの購入オファーがありました。

3.パートナーとの共創
コールドチャージベストの開発には、パートナーとの共創が不可欠でした。
広島大学長谷川教授には保冷剤の位置を決める基礎研究から、完成品の性能評価まで行っていただきました。コールドチャージベスト完成後も、部位別の身体クーリング効果の重みづけをしたミズノクーリングボディマップを作成していただき、そのマップはコールドチャージベスト以外の暑熱対策アイテムの開発にも応用されています。
また開発にあたり、複数の種目のアスリートの皆さまにモニターにご協力いただき、何度も改善を繰り返せたことで、より良い製品を作ることができました。
4.トップ選手の着用実績も多数
コールドチャージベストは2021年に販売を開始し、同年に開催された東京での大会でも多くの競技団体や選手の皆さまに使用していただきました。中でもソフトボール女子日本代表は優勝し、上野由岐子投手がコールドチャージベストに言及してくださったことで、期間中のテレビ番組でも取り上げられました。また、JISS(国立スポーツ科学センター)からも要望をいただき納品しました。さらにミズノと契約のある複数の高校・大学のサッカーチームなどでも使用していただいています。
これからもミズノはコールドチャージベストのような環境変化に対応した商品を開発し続けることで選手のパフォーマンスをサポートし、より良いスポーツ品の提供を通じて、スポーツシーンを支えていきます。