重要課題
サプライヤーにおけるCSR状況の把握と改善に向けた取り組み
一次サプライヤーにおける監査の実施と是正に向けた取り組み
取引中のサプライヤーに対するCSR監査は、「ミズノCSR調達規程」のもと、主なサプライヤーである約150以上の工場を対象として、ミズノCSR調達行動規範に定める内容の遵守状況について定期的(3年で一巡)にモニタリング(CSR監査)を実施しています。2021年度は17工場(一次工場:17工場〈国内5工場、海外12工場〉)の監査を行いました。
CSR監査は、現場監査、書類監査、従業員インタビューにより構成されているため、通常は複数の監査員が1日~数日かけて行います。遵守状況の確認には、ISO26000をベースとしたグローバルで共通のモニタリングシートを使用します。モニタリングシートの中の各監査項目は、重要度と緊急度によって、致命的、重大、一般の3つに分類されています。監査項目に適合している場合は、それぞれの分類に設定したポイントを集計することにより数値化して評価を行います。
CSR監査と是正の仕組み
CSR監査の流れ
|
監査員から工場の責任者や人事総務担当者、組合長などに対して「ミズノCSR調達ガイドライン」を利用し、監査の主旨を伝えるとともに、スケジュールなどについて説明を行います。 |
---|---|
|
工場内を点検しながら不明な点は随時担当者へ質問。また生産現場だけでなく、食堂や寮にも赴き、安全衛生面や生活環境は守られているかを確かめます。
※ 全建屋対象 |
|
児童労働の有無や、労働時間や給与、社会保険は適切か、建築や消防に関する書類は揃っているか、環境に関する必要な測定は実施しているかなどを点検します。 |
|
労働時間、休暇、賃金、健康診断などについて従業員の方に質問し、工場責任者の証言や書類の内容と一致するか確認します。また、セクハラや差別、虐待といったことがないか確認します。 |
|
現場監査と書類チェックの結果をまとめ、工場責任者に監査結果を報告するとともに、今後の改善の計画などを話し合います。詳しい評価は、後日ミズノから連絡します。 |
2021年度のCSR監査実施状況(初回監査)
国 | サプライヤー数※1 | 重要なサプライヤー数 | 2019年度監査実施数(参考) | 2020年度監査実施数 | 2021年度監査実施数※2 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 128社 | 49社 | 2社 | 1社 | 5社 |
中国 | 204社 | 43社 | 12社 | 13社 | 9社 |
韓国 | 15社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 |
台湾 | 32社 | 6社 | 0社 | 0社 | 0社 |
インドネシア | 18社 | 7社 | 3社 | 1社 | 0社 |
ベトナム | 60社 | 22社 | 8社 | 6社 | 1社 |
タイ | 9社 | 5社 | 2社 | 1社 | 0社 |
フィリピン | 4社 | 3社 | 2社 | 0社 | 0社 |
ミャンマー | 11社 | 8社 | 2社 | 0社 | 0社 |
カンボジア | 9社 | 4社 | 0社 | 1社 | 0社 |
その他 | 18社 | 3社 | 0社 | 0社 | 2社 |
計 | 508社 | 150社 | 31社 | 9社※3 | 17社 |
※1 2021年4月時点。2016年度からCSR監査対象とする条件を変更した。
※2 ミズノでは3年で一巡するよう主要工場での監査を実施している。
※3 新規サプライヤー候補工場への事前監査を含む。
CSR監査対象とする条件の一つ
ミズノは、世界銀行が発表する「世界ガバナンス指標」を参考に独自の視点も加えて、人権リスクが高いと考えられる国々をCSR監査の対象国としています。この作業は直近の「世界ガバナンス指標」を参考に毎年レビューを行っています。
国民の声(発言力)と説明責任、政治的安定と暴力の不在、政府の有効性、規制の質、法の支配、汚職の抑制などで総合的に上位に位置付けられた国は、CSR監査対象外国としています。日本は、CSR監査対象外国ですが、日本に所在する工場であっても人権問題が懸念されている外国人技能実習生を雇用する工場に対しては、監査対象工場としてCSR監査を実施しています。
外国人技能実習生を雇用する監査対象工場の実態調査
日本に所在する当社の製造委託工場は120工場あり、そのうちの43工場が延べ538人の外国人技能実習生を雇用しています。外国人技能実習生を雇用する工場で、当社の基準で監査対象となった工場は24工場あり、235人の外国人技能実習生が働いています。2021年度は、日本国内43工場のうち12工場が監査対象でした。新型コロナウイルスの影響もありましたが、5工場の監査を実施しました。
2021年度にCSR監査を実施した5工場の評価は、A評価:4工場、B評価:1工場でした。5工場で雇用されている外国人技能実習生の国籍内訳は、中国:2人とベトナム:49人でした。
主なモニタリング内容
当社は、主に以下の項目について監査を行っています。監査項目は、致命的、重大、一般の3つに分類し、それぞれの分類でポイントに重み付けをしています。監査対象工場の設備などによって該当する監査項目が異なることもあるため、該当する監査項目ポイントの合計を割合で表しています。
監査項目と平均点(2021年度)
監査項目 | 平均点(全体) | |
---|---|---|
人権 | 結社の自由 | 92.3% |
差別/ハラスメント/ジェンダー | 100.0% | |
児童および未成年労働者 | 100.0% | |
奴隷労働/強制労働/移住労働 | 99.4% | |
労働慣行 | 雇用契約/雇用条件 | 96.6% |
労働時間 | 82.7% | |
報酬 | 89.2% | |
安全衛生 | 飲料水/洗面台/便所 | 96.1% |
化学物質 | 78.4% | |
管理システム | 94.0% | |
救急処置 | 75.6% | |
消防 | 79.2% | |
厨房 | 100.0% | |
電気/機械/設備 | 77.8% | |
寮 | 94.3% | |
労働環境 | 89.4% | |
環境 | 汚染の防止 | 95.0% |
化学物質(二次工場のみ対象) | 95.6% | |
管理システム | 91.2% | |
資源の使用/気候変動の緩和 | 80.9% | |
その他 | 監査協力姿勢 | 100.0% |
平均 | 89.9% |
国別平均点
人権に関する不適合項目について
人権項目に属する、児童および未成年労働者、強制労働、結社の自由、差別、懲罰慣行の5項目で2021年度の監査で指摘のあった内容とその是正状況を下表に示します。
分類 | 内容 | 是正状況 |
---|---|---|
人権>奴隷労働/強制労働/移住労働 | 家内労働がある場合、工場は家内労働者と委託契約を結んでおり、契約書コピーを保管しているか? | 不適合1件、完了 |
人権>結社の自由 | 労働組合を結成し、加入する労働者の権利は、労働者に対して経営者により認められているか? | 不適合2件、1件完了、1件未完了 |
人権/結社の自由 | 工場と労働者の代表が協議などを通して、労働者の苦情を解決する仕組みを持ち、有効に機能しているか? | 不適合2件、未完了 |
人権/結社の自由 | 労働者は彼ら自身の代表/代弁者を選出しているか? | 不適合2件、未完了 |
監査結果の評価ランク
ミズノは、評価指数90以上を評価A、評価指数80-89をB、評価指数70-79をC、評価指数69以下または児童労働・強制労働が発見された場合をDとし、監査結果を4段階で評価しています。
2021年度の監査対象工場の評価ランクは以下の通りです。
評価ランク | 対象数 |
---|---|
A | 11社 |
B | 5社 |
C | 1社 |
D | 0社 |
全体 | 17社 |
違反が確認されたサプライヤーの是正状況
不適合が多かった項目
2021年度の監査で不適合が多かった項目は「安全衛生(電気/機械/設備)」「安全衛生(化学物質)」「安全衛生(消防)」「労働慣行(労働時間)」「安全衛生(救急処置)」「労働慣行(報酬)」「環境(資源の使用/気候変動の緩和)」などでした。
具体的には、機械の可動/回転部分、滑車、およびベルトまたはその他の機械の危険な部分への適切な保護装置の設置、危険/有害物質の管理・保管、化学薬品貯蔵所や危険廃棄物貯蔵所の消火設備、消火器・消火栓・火災報知器へのアクセス障害、出口および非常口の標識や表示灯、労働時間・残業時間などで不適合が発見されました。
全体
順位 | 分類 | 要求事項 | 不適合割合 |
---|---|---|---|
1 | 安全衛生>電気/機械/設備 | 機械の可動/回転部分、滑車、およびベルトまたはその他の機械の危険な部分に、適切な保護装置が設置されているか? | 59% |
2 | 安全衛生>化学物質 | 危険/有害物質は安全かつ厳重に保管されているか?
化学薬品貯蔵所の消火設備は適切か? 危険廃棄物貯蔵所の消火設備は適切か? |
53% |
3 | 安全衛生>消防 | 消火器・消火栓・火災報知器へのアクセスに障害がないか? | 47% |
3 | 安全衛生>消防 | 出口および非常口は、標識または表示灯と共に確認されているか? | 47% |
3 | 労働慣行>労働時間 | 労働時間・残業時間は法的要求事項を満たしているか? | 47% |
6 | 安全衛生>救急処置 | 選ばれた労働者は救急処置のトレーニングに出席していたか? | 41% |
6 | 労働慣行>報酬 | 全ての労働者は、現地の法的要求事項を満たす社会保険を提供されているか? | 41% |
7 | 安全衛生>消防 | 現地の法律または規則が要求する場合は、現地の消防行政機関によって発行された有効な消防検査証明書 /許可証を持っているか? | 29% |
8 | 安全衛生>消防 | 各工場フロアにおいて、非常口および避難経路には避難に支障をきたす障害物がないか? | 24% |
8 | 環境>資源の使用/気候変動の緩和 | 工場は水およびエネルギー消費の抑制に関する従業員教育・研修を実施しているか? | 24% |
8 | 環境>資源の使用/気候変動の緩和 | 工場は電気・ガス等のエネルギーを管理しているか?消費を抑制しているか? | 24% |
8 | 安全衛生>消防 | 全ての現場の建物が構造的に安全であり、点検され、かつ地方自治体によって発行された証明書/許可証を持っているか?(建築証明書など) | 24% |
不適合項目の是正状況
全体 | 88件 | 100% |
---|---|---|
是正済 | 39件 | 44% |
未是正 | 49件 | 56% |
※ 2021年度実施のCSR監査における2022年3月31日現在の致命的・重大不適合項目の是正状況
二次・三次サプライヤーにおける対応
当社は、当社と直接的な関係を持つ一次サプライヤーにおける人権、労働、環境影響の把握と必要に応じた是正を第一に優先すべき重要課題として取り組みを進めています。
また、当社とは直接取引がないものの、ミズノの委託先工場に部材や部品を納める二次・三次サプライヤーについても、著しい人権、労働、環境影響が発生するリスクの高い領域に焦点を据えた取り組みを進めています。当社は、2017年度からリスクが高いと思われるゴルフクラブのアイアンヘッドなどのメッキ、繊維素材の染色、野球グラブやシューズ用の皮革なめしなどを行う二次・三次サプライヤーの現状把握を開始しました。
- 2017年度:二次・三次サプライヤーの実情を把握するため、日本の金属加工工場とタイの生地染色加工工場を視察しました。
- 2018年度:中国のメッキ工場、ベトナムの皮革なめし工場、シューズのアッパー(甲被材)工場、シューズのゴム底工場のCSR監査を実施しました。
- 2019年度:ゴルフ部品工場、甲被材、底材工場のCSR監査を実施しました(ゴルフ部品工場、底材、甲被材加工工場の3工場の監査結果が基準を下回りました)。
- 2020年度:2018年度および2019年度に基準を下回った工場が4工場あったため、そのうちの2工場の追跡監査を実施しました(他の2工場とは取引終了)。追跡監査を実施した2工場については、是正の実施により、Aランクの評価になりました。また、2020年度には、4工場(ゴルフクラブの部材工場/1工場、シューズの材料工場/3工場)の初回監査を計画していましたが、シューズ材料工場の3工場とは取引を終了したため、ゴルフクラブの部材工場の1工場のみの監査実施となりました。
- 2021年度:工場は、新型コロナウイルス感染防止措置として外部からの訪問者の入場制限などを実施したため、二次、三次サプライヤーの監査を実施できませんでした。
CSR監査以外での対応
現在、当社の委託先工場の多くが所在する東南アジアでは、現地の急速な経済成長を背景として今まで以上に環境問題や労使紛争などが起こりやすい状況になってきています。このような社会の変化が進展する状況下では、CSR監査における不適合項目の是正だけでは根本的な人権・労働・環境問題の解決にはつながりにくくなっています。そのため、今後はCSR監査以外の活動として、工場のキャパシティ・ビルディング(能力向上)に力を注いでいく必要があると考えています。2021年度は新型コロナウイルスの影響もありましたが、CSR調達に関する社内向け4回、社外向け3回のキャパシティ・ビルディングを実施しました。社外向けの1回を除き、6回はオンラインでの実施でした。
責任ある外国人労働者受入れプラットフォームへの参加
日本国内の外国人労働者は約172万人(そのうち技能実習の外国人労働者は約35万人)、外国人労働者を雇用する事業所数は約28万カ所と報告されており※、日本の経済・社会の重要な構成員となっています。
当社は、SDGsの目標年限である2030年に向けて、任意団体の「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」に参加することにより、国際水準を満たす「プラットフォーム行動原則」に賛同・実践する企業や団体と共に、雇用主や受け入れ団体が法令を遵守し、責任を持って外国人労働者を安定的に受け入れるように外国人労働者の労働・生活環境の改善を推進していきます。
※ 厚生労働省調べ、2021年10月末現在
今後の課題
- CSR調達監査による定期的なモニタリングは、もとより監査で指摘された問題の是正が重要です。今後も、サプライヤーとの対話を通じて是正の促進に引き続き取り組みます。
- 一つの工場が複数のブランドの製品を受託して製造している場合、それぞれのブランドから個別の監査要求に対応しているケースが見受けられます。そのような監査の重複や要求事項の違いなどに対する改善の要望を受けて、業界団体やその他のイニシアチブによる情報の共有化の取り組みが進んでいます。当社もこうした状況の改善に向けた取り組みの研究をしていきます。
- CSR監査は監査時点の状況を把握することはできますが、工場を常時モニターすることはできません。近年、CSR監査を補う手段として、「苦情処理メカニズム(グリーバンス・メカニズム)」の構築が有効とされています。当社は、救済のアクセスを保障するとともに、潜在的なサプライチェーン上の問題を早期に発見するため、「苦情処理メカニズム(グリーバンス・メカニズム)」の構築に取り組みます。